リヴリーの掌編小説

ミライコンビニ

ボクが学校帰りに必ず立ち寄るのは「コンコン・マート」だ。
convenience(便利)をconnect(つなぐ)するお店、という意味らしい。
ダサいよね。
でもそれがいいんだよ。

コンコン・マートは近所のおじいちゃんが店番をしてるんだけど、最近は腰が痛くて店に立てないらしく、ロボットのベディヌングが接客してる。
「ベディ、こんにちは」
「おや、ジェニュインくん。今日も来たんですか。ヒマですね」
ベディはロボットのくせに口が悪い。
誰のセンスでこの性格をチョイスしたんだろう。
「ボクだってやらなきゃいけないことはいろいろあるんだよ」
苦笑しながら、店の一番奥にある棚を見に行く。
「新しいもの、なにか入った?」
ベディは一歩も動かないままそっけなく答えた。
「わざわざ店に来なくても、新着商品は端末でチェックできますよ。ワンクリックでアナタの部屋のボックスまで届くのに、なぜここへ来るのですか」

通信技術の進化により、インターネットは11Generationにアップデートされた。
11G最大の特長は物質の転送技術が実用化されたこと。
まだ10Gを使う人がほとんどだけど、ボクの家は11Gにシフトしたから転送が可能なんだ。
まあ、要するにお金持ちってことなんだけど。

ボクが黙っていると、ベディは面白くなさそうに言葉を続けた。
「ジェニュインくんは教室で受講しているそうですね」
「わざわざ出かけるなんて、昔の人みたいって思うかい?」
「まあ、そうです」
街の人たちがボクを変わり者だと噂してるのは知ってる。
移動時間の節約、天候に左右されない生活、取捨選択の煩わしさからの解放。
国が開発した端末により、人間の暮らしは大きく変化した。
買い物は定期購入で届き、学校はオンデマンド配信で履修し、安価なハウスキーパーロボットが流通して、仕事も自宅で就労するのが当たり前になった。
もちろん便利な暮らしは素晴らしい。
でも、いつからかみんな、表情を失ってしまった。
パパもママもよく笑う人たちだった。
最後に笑ったのはいつだったか、思い出せない。

ボクが毎日チェックするのは、コンコン・マートの「リサイクルコーナー」だ。
街の人たちがいらなくなったものをおじいちゃんが回収して、店の一番奥の棚に並べる。
おじいちゃんができなくなってからは、文句を言いながらベディが引き継いだ。
ママのお気に入りだった、トルコブルーの鮮やかな食器セット。
それをハウスキーパーロボットがリサイクルに出しちゃったんだ。
あのポンコツめ。
食器棚からトルコブルーがなくなったのに気づいたとき、ママは一瞬だけ目を大きく開いて、それからすぐに力が抜けたように小さく笑った。
それがボクには、泣いているように見えたんだ。

「今日のリサイクル回収はこれから出かけますが、ジェニュインくんも一緒に来ますか?」
「ボクも行っていいの?」
「ジェニュインくんが一緒に来たところで、役には立ちませんがね」
ベディの悪態を聞き流してボクは立ち上がった。
クラウド型のスケートボードを起動してボクが飛び乗るのを見ると、ベディは滑らかに発進した。
沈みかけた夕日が、今日最後の光を放っている。
風がないから、放射冷却で今夜はうんと冷えるだろう。
小さい頃、ママと「寒いね」と言いながらコンコン・マートでピザまんを半分こしたことを思い出した。
あの美しいブルーの器が見つかったら、パパとママと3人でピザまんを食べよう。

リヴリーの掌編小説

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