リヴリーの掌編小説

月に帰る

祖母の枕元で昔話を聞くのが好きだった。
祖母は自然動物に関する研究をしていたそうで、あの「月の鳥」を飼育していたのだという。

「おばあちゃん、月の鳥のお話して」
私がせがむと祖母はいつも困ったように目を細めた。
「りーちゃんは月の鳥が大好きなのね。でも、よその人には話さないほうがいいわ」
「うん、わかってる」
月の鳥について話すとき、祖母は決まって口止めした。
もっとも月の鳥を信じている人などいないのだから、私も他人に話そうなどという気はなかった。

「月の鳥が逃げ出して、私はヘリコプターに乗って空の上まで探したの」
「ヘリコプターって、小さいお部屋に羽根がついていて飛ぶやつだよね?」
「そう、空まで飛べる乗り物よ」
私は“月の鳥時代”の話を聞くのが大好きだった。
見たことのない乗り物や、魔法みたいな技術について祖母が語ると、まるで童話の中に入ってしまったみたいにわくわくした。
「雲の上に出たら、月の鳥がいた。そこには白く霞む桜の木があって、天女のような人が立っていたの。月を見て鳥が鳴き出すと、その人も横笛を吹いた。まるで一緒に演奏しているようだったわ」
そこで言葉を切ると、祖母は目を閉じて小さく息をついた。
「聞いたことのない美しい音色が途切れたとき、月の鳥が大きく羽ばたきをしたの。月へ向かって飛んでいったまま、戻ってこなかった」

月の鳥がこの星を去り、文明は崩壊した。
かつては太陽が明かりの代わりだったそうだが、いまは永遠に星空が広がっている。
「昔はよかった」という人もいるが、私は便利だったころを知らないし、いまの生活をわりと気に入っている。
近くの小川で顔を洗い、季節ごとに変わる木の実を食べ、星を指先で繋ぎながら歌う。
太陽があったころは、日の出とともに起きて働かなくてはいけなかったらしい。
好きなだけ眠ることができないなんて!

祖母の話を思い描くと、私も雲の上を見たような気持ちになる。
月の鳥が羽ばたくと桜の花弁が舞い上がり、まるで天国のような光景だったと祖母は言う。

星の輝きをながめながら時々思う。
笛を吹いていた人はいったい誰だったんだろう。
月の鳥は、月に帰れたのかな。
月ってどんなふうに光るんだろう。
でも、誰にも言わない。
おかしな子だと思われるから。
月の鳥が実在したことを、人々はみな忘れてしまったのだ。

リヴリーの掌編小説

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